アメリカ・コロラド雪上トレーニング事情

カッパーマウンテンの人工降雪機は48時間前後でこれだけの雪を作れます。120時間あればこのバーン全体に雪を付けることが可能。2019年10月25日撮影

10月後半 コロラドも順調に冷え込んでくれて周りにある8スキー場もそれぞれ人工雪作りのスケジュールもいつもより早いテンポ。
もっと長い時間降雪機を廻せるようにといつ寒くなるか?胃が痛くなるような思いもせずに2019-20シーズンは素晴らしいスタートを切っています。

オレがこの時期毎日いるカッパーマウンテンもコロラド州内の大学チームや地域クラブのみならず遠くからはモンタナ(片道約14時間)やユタ州(7時間)からもみんなクラブで所有するバンに選手と機材を積み込んでカッパーマウンテンで雪上トレーニングを初めています。

その安定した天候、トレーニング環境の良さ、そしてワールドカップがゾルデンの開幕戦から男女ともに北米大陸に舞台を移す(SLは別スケジュール)という大会スケジュールもあってヨーロッパ各国チームも11月にはほとんどみんなコロラドに集結することになり、カッパーマウンテンもとても賑わいます。

今でもこの時期10月後半から11月のトレーニングはヨーロッパの氷河でのトレーニングが常識でしたがアルペンレースやハーフパイプでのいろんな大会イベントを大切にしているカッパーマウンテンはここ10年間で新しい降雪機を増設したり、レーストレーニング専用バーンを増やしたり、ととても積極的に、お金をかけて10月からのトレーニング環境を良くしてくれているのです。

お金をかけてコンディションをよくしたら、当然そのリターン 見返りも求める。
とても資本的な考えでビジネスを展開するアメリカの企業、カッパーマウンテンもその投資に見合ったリターンを期待します。

毎年11月後半にオープンするオリンピックサイズのスーパーパイプだけで人工雪作りから計算していくと5千万円かかる、、この11月から新しくオープンさせる標高差650mのレーストレーニングコースも最新鋭の人工降雪機を設置してその費用に約2億円、、

そう環境作りと言うのはなんだかんだでお金がかかるもの。

カッパーマウンテンはその費用をカバーするためにトレーニングコース使用料をチームにチャージしています。

2時間半で370ドル(41,000円)。これは標高差125mの短いコース。

GSで30〜35旗門、標高差250m、距離約1キロの長いコースでのトレーニングバーン使用料は725ドル 約8万円。選手達はこの長いコース、それも海抜3,800mの高地で6本も滑れば口パクパク、心臓バクバク、足ヨレヨレ、しっかりと。

さて、この4万円という使用料、高いか?安いか?

チームに15名選手がいればひとりあたりのコストは2,600円。

選手専用の10月からの4月まで使えるシーズンパス(17才までのジュニア用)389ドル 43,000円。20日間雪上トレーニングをするとして、1日あたり2,200円。

コース使用料+リフト券 4,500円。

コーチのリフト券は無料。

アメリカでのトレーニングはコース使用料を取るから高くてダメ、ヨーロッパはコース使用料はタダだよ。と良く聞きます。

確かにヨーロッパのスキー場はコース使用料をチャージしません、それはすでにリフト券料金に含まれているから、です。

ちなみに11月のヨーロッパ氷河のスキー場リフト券料金は1日5,000~6,000円。コーチのリフト券もチャージするスキー場もあります。

カッパーマウンテンとヨーロッパを比較してみると、、
それほど変わらない。コロラドの方が天候による「スキー場閉鎖」が無いだけスケジュール通りにトレーニングが出来ていいかも?

また、カッパーマウンテン経営からの視点で見てみると、
新しいコースを2億円の人工雪設備で作りました。これを10年で回収するためには?
1シーズン2千万円のお金を利用者から頂かなければならない、、
11月10日から12月10日までの30日間、毎日そのコース(6コース)を3時間ずつ4スロット、計720コース 貸し出すとしたら?
まぁ毎日フルで貸し出すことはない、と想定して稼働率60%として?
432コースのお貸出。1コース貸出料は$1,100 12万円、合計して$475,000 5千2百万円バーン使用料として入ってくる。
となれば2億円の投資は(単純計算で)4年で回収可能、となるのです。
そうです、回収に10年もかからない、、結構いい商売となる。

(人工降雪機、なにもないところからポンプ、冷却設備、パイプ、ノズル、オートメーションシステムなどなど、、1から作ったら2億では出来ません。山の大きさにもよりますが最低10億、日本だと20億行くかも?プラス 水権(これが実は一番面倒、、)そしてポンプを動かすための電気代(これも日本高い)、スタッフ人件費、、
今回カッパーマウンテン2億円、というのはすでに高性能ポンプがあり、パイプ設置も最低限の距離で済んだから。)

2時間半のトレーニングで12万円?そんなコース誰が買うの?と思われる方もいると思う。現在の予約状況はすでにほとんど売り切れ状態、予約を入れているチームの80%は各国ナショナルチームなのです。たくさんコースを買うから安くしてくれ!オレ達はナショナルチームなんだぜ!というのは全く通用せずアメリカチームでさえ正規料金を払っています。ヨーロッパのナショナルチームはすでにカッパーマウンテンにコース使用料と宿泊費全額銀行振込み済み、そしてクレジットカードの番号も送ってきていて「足らない分はこのカードにチャージしておいてね」。彼らはいいトレーニング環境にはお金がかかる、どうせ支払わなければいけないものなのだから払うものはサッサッと払って次のトレーニング場所、レース会場にGo~! シーズン入っちゃうと本当に忙しいからね、みんな。

スキー場から見ればコース使用料のみならず、シーズンパスやリフト券、宿泊も飲食も売り上げ上がり、、それもまだシーズン本番前の11月に、、これはシーズン前に売る格安シーズンパス売り上げとともに嬉しい収入、となる。

いいトレーニング環境を求めるチーム「需要」と、
それを提供するスキー場「供給」、
のバランスが取れている状況。
大切なのは供給する側に「利益」が伴わなければ、供給側が音を上げてしまって供給が止まる。でも利益を追うばかりで値上げしすぎればチームが来なくなって商売にならない、、
各チームが支払える料金設定、そしてそれでスキー場側も利益もあげられる、そこら辺の落としどころがミソでしょうね。

ところでその落としどころ、、
というのは当然アメリカ経済がベースになっていて、、それを日本経済に当てはめると?? 日本ヤバイ、、。

最近日本に行くたびに日本の物価の安さ、、外国から日本にやってくるインバウンドのお客さんにとっては嬉しいけど、、に驚かされ、給料の低さにショックを受けます。
日本からの各チームがアメリカやヨーロッパでの宿泊費やコース使用料を払えなくなっているのを見ているのはとても辛いもの。

ど〜したらいいんでしょうね〜?
良いトレーニング環境に支払えるお金がない、、それだけの理由で才能ある若い選手たちがトレーニングが出来ずに世界で戦えない?

それはとても虚しすぎる、と思うのです。

日本からのジュニアが聞きました「コロラドには雲が無いのですか?」晴天率80%のコロラド。
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